その3(10話)21【乙女の祈り】 「あ~。もう、こんな貧乏生活、いや! 神様、一生のお願いです。どうかわたしを どこかの国のお妃にしてください」 神様はあなたを見捨てなかった。 願いは瞬時にかなえられた。 「どっひゃあ~!」 断頭台の前で腰を抜かすあなたは、 フランス王妃マリー・アントワネット。 ------------------------------------ 22 【三丁目】 気がつくと二丁目に住んでいた。家には俺と弟のふたりだけ がいた。近所には高校の同級生と他に同年代の青少年、 計五十人ほどがいた。俺たちは徒党を組み、バットや 木刀を持って三丁目に行った。そこにはお年寄りがいた。 俺たちはそいつらを襲って食料や日用品を奪い、二丁目に 帰った。食料は一週間で底をついた。一丁目にはどんな やつらがいるのだろう。俺たちは再び武器を手にして、 一丁目にむかった。そこには五、六歳の子供がいた。 よく見るとそいつらは俺たちの幼少時に瓜二つだ。 そうか一丁目は過去なのか。すると三丁目は── ------------------------------------ 23 【自殺】 さて。人生は、はかない。 男は、自ら命を絶つことにした。 今、強風にさらされながら、岸壁にたたずんでいる。 はるか下は、荒れ狂う海。 ヒョイ。跳んだ。 真っ逆さまに落ちながら、 (確か、飛び降り自殺する人は、落ちてる途中で気を失うんだよなあ) と思った。 しかし、男は気絶しなかった。 そして、いつまでも落ち続けた。 時間の狭間に迷い込んだのだ。 男は今も、真っ暗な時空間を、落ち続けている。 ------------------------------------ 24 【探検】 わたしは大学の助手。 考古学者の吉村教授に師事している。 いま、徳川幕府埋蔵金を捜し求めて、 テレビスタッフと洞窟を探検している。 「どうやら、この近くだ」吉村教授がつぶやいた。 教授が手にしている探知機の針は振り切っている。 さすが吉村教授、難なく宝のありかをつきとめた。 「やりましたね、教授」 尊敬する吉村教授。この人に一生ついていくぞ。 「あっ、いっけねえ」あたまをかく吉村教授。 「どうかされましたか、教授」 「ちょっとミスった。 これ、金属探知機じゃなくて、放射線検知器だった」 ------------------------------------ 25 【積み木】 部屋に積み木がある。無数にある。 形は四種類──立方体、三角錐、四角錐、そして三角柱。 みんな好き勝手にころがる。 カタン、コトン。ガタゴト、ゴットン。 ゴロガタ、ゴットン。ドタバタ、ガッタン。 跳ねたり、すべったり、まわったり、壁にぶつかったり、 お互いにぶつかり合ったり、止まったままだったりしている。 知らず知らずのうちに角が欠けていく。 どんどん、どんどん、角が欠け、 どんどん、どんどん、丸くなる。 カタン、コトン。ガタゴト、ゴットン。 ゴロガタ、ゴットン。ドタバタ、ガッタン。 よく見ると、床に丸い穴があいている。微妙な大きさだ。 穴に気づくものもいれば、気づかないものもいる。 そのうち、その穴に、 ゴロガタ、ストーーーンと、積み木は落ちる。 床の下は、あの世。 ------------------------------------ 26 【月曜】 土日は 山奥の畑で野良仕事 俗界のシガラミからのがれ しばし、土とたわむれる 太陽がほほえみ 大地があくびする 月曜の朝 しぶしぶ下山し 途中で目が覚める 目覚まし時計の音がけたたましい 一番いやな朝 ------------------------------------ 27 【禁断の恋】 「えへへへへ。いい体してるじゃねえかよ」 「や、やめて。いけないわ」 「気取るなよ。お互いすっ裸じゃねえか」 「ダメ。ダメよ、兄さん」 「『兄さん』だってえ? うれしいこと言ってくれるじゃねえか」 「ああん、いやん。あっ、や、やめて……」 「ホントにやめていいのか?ほれ、ほれほれ。 ここかあ? ここがいいのかあ?」 「あっ、あっ、あああ……」 「ええかあ、ええのんかあ、サイコーかあ」 「あっ、あっ、い、いいぃぃぃ……」 オギャー、オギャー。 オギャー、オギャー。 「おめでとうございます。無事生まれましたよ。男女の双子です」 「はぁ~、はぁ~……、せ、先生ぇ~、あ、ありが、とう、ござい、ます。 はぁ~、はぁ~……」 「もうすぐお祖母(ばあ)ちゃんですね。 娘さんのほうは妊娠しています」 ------------------------------------ 28 【ちょっとした出来事】 風呂のお湯をおけに汲み、ジャバア~っと頭からかぶる。 ため息をつきながらスポンジにボディーシャンプーをつけ、 ゴシゴシゴシゴシ、体をこすりはじめる。 仕事はうまくいかない。女房は実家に帰った。 ふと、死にたくなる。 胸をこすっていると、かすかに「オギャ~」と声がし、 ぐうぜんできたシャボン玉が、ふぁ~っと舞った。 シャボン玉は天井近くまで行き、やがて落ちてきて、 目の前で「さようなら~」と言って、われた。 生きてみるか、と思った。 ------------------------------------ 29 【いやし】 屋内でペットを飼っている。十匹以上いる。全部拾ってきた。 どれもかわいい。仕事に疲れたとき、触れていると自然と癒される。 一匹、おびえている。悪ガキにでもいじめられたことがあるのか。 人を恐れているようだ。 どれどれ。ほーら。あごを人差し指でくすぐってやると、 気持ちよさそうに目を細め、鳴いた。 「ニャ~」 オレはたちまち不機嫌になり、そいつの腹を思いっきり蹴り上げた。 「グエッ!」その声に余計あたまにきて、さらに数回蹴り上げる。 「バカヤロウ! てめえ、今週は犬だっつったろう。使っていい言葉は、 『ワンワン』と『ご主人様』の二つだけだ!」 ------------------------------------ 30 【パソコンだって】 トイレから戻ってパソコンを見ると、オート・スリープしていた。 確か、どれかキーを押せば復帰するはずだ。 おや? 変な音。おもわず、伸ばした手が止まる。 グーグーって、まるでイビキのよう。 あっ、画面が勝手に立ち上がった。 青い空。左から右にゆっくり流れる雲。 右下から竜のような文字列が現れたぞ。 優雅に大空を舞っている。 わっ、文字が弾け跳び、画面いっぱいに拡がった。 アルファベットや数字、ひらがな、カタカナが不規則に踊っている。 パソコンも夢を見るんだなあ。 あすの朝まで、このままそっとしておこう。 おやすみ! ジャンル別一覧
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